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最高裁判所第一小法廷 昭和45年(あ)2274号 判決

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人両名の弁護人池田良之助の上告趣意は、事実誤認、単なる法令違反、量刑不当の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

なお、当審が職権により調査したところによれば、原審の裁判長河村澄夫は、被告人両名およびその弁護人の在廷する法廷において原判決主文の宣告にあたり、「被告人和田武を懲役一年六月に処する」と朗読すべきところを、誤つて「被告人和田武を懲役一年二月に処する」と朗読し、次いで判決の理由の要旨を告げ、上訴期間等の告知を行ない、席を立ちかけたところ、弁護人から所論のような質問があつたので、同裁判長は、即座にその場で同被告人の刑は懲役一年六月である旨および今一度主文を朗読する旨を告げ、直ちに主文を朗読し直したことが明らかであるから、同被告人に対する宣告刑は懲役一年六月としてその効力を生じたものと解すべきである。

よつて、刑訴法四一条、三九六条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(岩田誠 大隅健一郎 藤林益三 下田武三 岸盛一)

弁護人池田良之助の上告趣意

〈前略〉

第四点 原判決はその言渡手続においてその違法がある。原判決は第一審判決を破棄したため、改めて主文において両名にそれぞれ懲役刑を宣告された。その主文朗読に当り被告人和田武に対しては、明らかに「懲役一年二月」に処すると言渡されたのである。

その後理由の説明を終つて上告期間等の諭告があつて、裁判長は閉廷を宣し、裁判官一同立上つたのである。

右判決言渡に立会した弁護人は、被告人和田武については確かに「懲役一年二月」と聞いたので、裁判長に対し「和田武は懲役一年二月ですね」と問い質したところ、「いや懲役一年六月です」と訂正された。以上が当日の判決言渡の模様であり、被告人らの別紙上申書記載のとおります。

裁判官が居なくなつて後、弁護人は立会検察官や書記官に対し、「たしかに一年二月と云われましたね」と申したところ、書記官は黙つていましたが、検察官は「法廷を出る前に云い直されたからそれで良いのではないでしようか」と申されたが、被告人や弁護人の納得のできないところである。

弁護人は判決謄本の交付をうけ、これを閲読したところ、被告人和田武については、主文朗読の際言渡された一年二月と異り、一年六月となつており、被告人らや弁護人の甚だ不満とするところである。

検察官は前述のとおり意見を述べていますが、裁判長より上告期間等の諭告をなし、閉廷を宣して後、判決主文の刑期を訂正しても、その訂正は無効のものと思料する。本件の場合偶々弁護人から閉廷後、発問したため訂正されたのであるが、左様な事なくして終つた場合、主文朗読の一年二月が有効であること勿論である。閉廷後の発問による訂正があつたと否とによつて、その結論を左右すべきものではないと思う。

御庁において職権を以て事実御調査の上御善処の程期待する次第である。

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